「政治」をもっと身近なものに ~白坂有子さんへのインタビュー~

京都市役所のすぐ近く、半地下の階段を下りたところにIrish Pub GNOME(以下、GNOME)がある。店主である白坂有子さんは、美味しいアイルランドの家庭料理やビール、ウイスキーなどを提供する傍ら、ここで「政治」に関する活動をおこなっているという。今回のインタビューでは、その実態と活動への思いを聞いた。



1.「Pub」の持つ意味と「GNOME」という場所

…初めて来させてもらいましたが、GNOMEはどんな場所ですか?有子さんがここを始めよう と思ったきっかけ、どんな場所にしたいかというコンセプトも聞かせてほしいです。


 夫も私も音楽をしていたので、ライブハウスのような生演奏ができるお店を出したかったというのが始まりです。PubってもともとPublic houseという意味で、アイルランドにはどこにでもある、地域の公共のリビングのようなところなんです。そこで地域の人たちが夕食後に集まり、音楽を演奏したりお酒や会話を楽しんだりする、そんな場所にしたいと思っていました。

 GNOMEができたのは今から11年前の2007年です。この年はネット社会やSNSが盛り上がってきた年でした。直接会って話すという人と人とのつながりよりも、ネットを介したつながりが増えていく兆しがありました。だからこそ、前者のような「リアルな」つながりをつくることのできる場所が必要だろうと思いました。

 店を開いてみると、海外のお客さんがたくさん来られました。彼ら、彼女らはみんな初対面であっても自分の意見をはばからずに話しますし、日本では敬遠されがちな「政治」の話も平気でします。日本人にはない感覚なのかなと思っていましたが、そうではありませんでした。日本人でも会話を重ねるうちに、実は「政治」に関して色んな考えを持っていることがわかったんです。

 2009年のリーマンショックや2013年の東日本大震災など、世の中が変わっていく中で、当初から持ち続けていた「世の中のことをもっと考えたり、自分の考えと他者の考えをもっと気軽に交流させることができる場所を作りたい」という思いが強くなりました。そういう意見交換や色々な活動を通じて、人と人とのリアルなつながりを作ったり、自分たちの意見を発信する場所になっていきました。




2.「政治」をもっと身近なものに

…先ほど「色々な活動」とおっしゃいましたが、どんな経緯で始まり、どんな内容の活動をされているんですか?


 2014年の「特定秘密保護法」のこと、2015年には「安保補正」があって、どんどん世の中がきな臭くなってきた頃に、友人から何か行動を起こそうと声がかかりました。私たちの世代はみんな何かしら「このままではいけない」という思いを持っていたんだと思います。だからこの場所を使って、「GNOMEサロン(以下、サロン)」という名前の勉強会を始めることにしました。

 月に二度、テーマを決めて一緒に勉強したり、対話をしたりできる会を設けました。集まった人の対話から、次のテーマが決まっていく、そんな勉強会になっていきました。「法律」というテーマで弁護士を、「戦争」というテーマで戦場カメラマンを、「選挙」というテーマで国会議員を、「共生」というテーマで精神科医を呼んでくるなど、専門家の人たちの力も借りながら活動を続けました。


…どんな人が参加されるんですか?お話しを聞いていると内容もかなり事前知識が必要なもののように思いましたが、学生でも参加できるんですか?


 大きな講演会までは把握していませんが、小さな勉強会なら会社のパートさんとか、近くの居酒屋のおばちゃんとかがよく来てくれました。学生たちの参加はほとんどありません。もちろん、色んな人が集まるので前提となる知識の差があり、難しいことも多かったです。でも、ここに演奏しにくる子やバイトの子と話していると、決して「政治」に対して関心がないわけではないと言うんです。みんなニュースで「18歳選挙権」や「オリンピックのボランティア」について知ってはいるし、考えてもいる。でも、そういう内容について若い子たちも大人たちも、双方が対話をする機会を持ってこなかったんだと思います。だからサロンでは、参加したきっかけやテーマに関わりなく、「そもそも政治とは何か?」というところから話すようにしています。

 私は詰まるところ、「政治」は「自分たちの生活そのもの」だと思っています。なぜなら、政治によって、もっと具体的に言えば自分たちの納めた税金がどんな風に使われるかによって、生活の選択肢は広がりもすれば狭まりもするからです。つまり、自分たちの人生をどうデザインするかに大きくかかわるものが政治です。極端な例で言うと、もし日本に「徴兵制」ができたら、人生のデザインって大きく変わりますよね。

 私はサロンの活動が、政治をもっと身近なものにするきっかけになってほしいと考えています。だから、自分たちが生活の中で感じている困りごとが、今の政治と密接に関わっていることに気づいてもらえるような対話をしたいと思っています。特に若い人たちにはそういう対話を通して、「答え」を出すのではなく、今起こっていることに対して、もっと膨らみを持って、もっと想像力をたくましくして捉えることができる経験を積んでほしいと考えています。




3.市議会戦への出馬

…GNOMEやその他の活動を通して、今回の市議会戦への出馬をお決めになられたそうですが、それはどういった理由からですか?また、一個人として、一女性として有子さんが考える「政治活動」についてお聞かせください。


 自分にとって「政治活動」は「日常活動」だと思っています。誰かがデモをしていて、そのスローガンに共感できたら一緒に歩く、集会に参加して意見交換をすることは、ごくふつうのこと、「生活」です。それはGNOMEの活動でも、それ以外のところでも変わりません。今回の出馬も、そういう自分の「生活」の中で、政治に参加するひとつの「手段」であり、被選挙権という権利を行使することだと思っています。

 出馬の理由は、今までの活動でできることの限界も感じていたこともあり、行政に直接自分が関わることで、もう少し多くの人たちの助けになれるかも(役に立てるかも)しれないと思ったからです。また、母が経営者として働く姿を見たり、自分自身も経営者として働く中で、やっぱり「女性」と言う立場の弱さや、差別や偏見の目にさらされた経験から、もっと女性が社会参加していく必要性を感じたからでもあります。

 昔、私の会社で小学校から不登校で、ほとんど文盲の子が働いていたことがありました。字を読むことや、線に沿って書くこと、消費税の計算もできない状況でしたが、「昼の仕事がしたい」という思いを聞いて雇うことにしました。一つひとつそれらのことを勉強していって、数年後友人と一緒にお店を出すことができました。私の会社をやめる時、その子が「これで履歴書に会社に勤めてたって書ける」って笑っていたことは今でも忘れられません。

 政策など細かいところはありますが、私には「一人も取りこぼさない社会」にしないといけないという思いがあります。そのためには、社会の中で最も立場の弱い人たちを基準に考えなければならないと思います。そういう社会に近づけるために、自分にできることは何かを考えてきた結果、これまでの活動や今回の出馬があると思います。

 日本はまだまだ、権力の強い人が決めたことに、弱い人が従うという文化が根強いように思います。「政治」や「政治活動」は特別な人がおこなう、違う世界のものではありません。私やコンビニのおばちゃんが立候補してもいい、誰かが声をあげる、動くことで、みんなで社会をつくっていくことです。


…僕自身、「政治」はどこか自分の生活とは切り離された「政治家」がおこなうものだと思っていました。それゆえ「自分が投票しても意味がない」とも。有子さんのおっしゃるように「政治」が「生活そのもの」になるためにはどんなことが必要なんでしょうか。


 繰り返しになりますが、「政治」は自分たちの人生をどうデザインするかに関わるものです。自分たちの人生を良いようにデザインする権利はみんなにある、「人権」なんです。その権利を使うためには、政治に積極的に関わるしかないんです。それは何も「投票すること」だけではありません。

私は自分の一票を、自分の命であり人権だと思っています。なぜなら、私の一票は先人たちが欲しくても得られなかったもの、勝ち取ってきたものだと考えているからです。それを今私が持って、使うことができるという責任は大きいと思います。こんな風に、投票というシステムの前には、人々が「声をあげて動くこと」があったと思います。

 声をあげて動くためには、自分が有権者であるということがどういうことか、税金って何なのかを知り、考えることが必要です。入り口は「今年はサンマが高いなぁ」とか「友達の子どもが保育所に入れない」とか「年金だけでは生活できないから65歳過ぎてもバイトしないと」とか、なんでもいいんです。そういうことについて誰かと一緒に考える機会、広い意味での「教育」や「学び」が必要だと考えています。




…立ち寄ったお客さんが初対面でも気軽に会話ができるように、GNOMEにはたくさんの本や写真集、映画のパンフレットが置いてある。「政治」に関する本も多数あり、お客さんたちはこうしたものを媒介にしながら、意見交換をするという。



…店内は落ち着いた雰囲気で、アイリッシュ音楽が常にかかっている。お客さんがギターやピアノを即興で演奏することも。「政治」は本来、こんな風に自分たちが自然体で居られる空気の中で話し合うものなのかもしれない。

Sophia

lite-lab.のメンバーやlite-lab.に関わっている方々によるWebマガジンです。今自分たちが考えていること、感じたことを発信しています。

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